iPod shuffle
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iPod shuflle(アイポッド シャッフル)は、米国Apple社が開発・販売していた携帯用デジタル音楽プレーヤー(DAP)。
2005年1月に開催された Macworld の「One more things…」(最後にもうひとつ)として初代モデルが発表され、同月発売された。
2005年1月に発売された第1世代(初代、白く細長いプラスチック筐体)、小型化・金属筐体化されてクリップが付いた第2世代、「VoiceOver」に対応して本体操作キーが廃止された第3世代、本体に操作キーが復活して「VoiceOver」も使える第4世代(最終世代)がある。
初代発売より根強い人気に支えられて12年あまり続いたが、2017年7月に惜しまれながら販売終了され、2020年1月時点では流通在庫品のみが少数出回っている状態。 修理受付は第4世代に限り継続されている(税別4,400円)。
歴代モデル概観
第1世代
2005年 1月11日(米国時間)に発表され、日本では同月14日に発売された。価格は10,980円(税別)から(後に値下げされている)。家電量販店などで販売された。
⌀3.5mm 3極 ステレオミニジャックを搭載し、本機にもイヤホンが付属しているが、広く市販されている好みのイヤホン・ヘッドホンに交換して聴くことができる。
内蔵の充電池で最大12時間の再生時間。電池は交換できない(電池交換は修理扱いになり、修理受付は終了している)が、筆者が使っていた範囲では、毎日充電すれば1日使える電池持ちだった。
この交換不能の内蔵充電池(リチウムポリマー[1])は従来のiPodから引き継がれているが、当時の他社の競合モデルはニッケル水素充電池を使う機種が主流で、もちろん市販のアルカリ乾電池も使え、むしろ電池交換しながら聴き続けられることが売りになっていた面もあるので、本機のような交換不能の内蔵充電池を搭載したモデルはまだ少なかった。
それまでの iPod といえば、内蔵ストレージに大容量ハードディスク(後にフラッシュメモリ搭載モデルも登場している)を内蔵し、モニタを搭載した、大きく重くて高価なモデルばかりだった。 本機はそうした重厚長大モデルに満足しないユーザー向けに投入されたため、価格が1万円前後に抑えられるとともに、思い切った機能の割り切りと小型軽量化が進められた。
本機では内蔵ストレージにフラッシュメモリを搭載することで小型軽量化し、容量は512MBから※。従来のiPodは音楽ライブラリをまるごと持ち歩ける大容量を売りにしていた[2]だけに、大きな方向転換となった。
初代(と第2世代までの)shuffle はプレイリストを1つしか持つことができない思い切った割り切りぶりだが、再生/停止、曲送り/戻し、音量大/小の操作は前面のシンプルなボタンにまとめられ、ボタンも触れば判る立体的な形になっており、本体や画面を見ずに操作できるので、移動中・運動中などの「ながら聴き」に適している。この画面を見ずに操作できる非常にシンプルな操作性が、従来の重厚長大型iPodを敬遠していたユーザーの支持を集めたのは間違いないだろう。
もうひとつAppleらしいのは、この簡易版iPodとも言える製品に「shuffle」と名付けたことだろう。背面の電源スイッチに、OFF/順に再生/シャッフル再生を切り替える機能を持たせた(形は変わったが第4世代まで継続)。
実際に「シャッフル」して聴いているユーザーがどの程度いるかは知らないが(筆者はほぼプレイリスト順にしか聴かない)、細かな画面操作を捨てた替わりに、1つのプレイリストを「シャッフル」して聴く楽しみ方をアピールするのは上手いと思う。
また、USB Type-A 端子を本体下端に搭載し、本機の充電とデータ転送をUSBひとつで賄う仕様になっている。本機の発売時点でパソコンにはUSBがほぼ普及しており、USBの電源供給機能を充電に使う考え方も普及しつつあったが、本体に端子を内蔵するシンプルな使い勝手は新しかった(と思う)。
なお、本機の利用には iTunes が必要(第4世代まで同様)。おのずとmacまたはWindowsパソコンが必須となる(ChromebookなどではiTunesを使えない)。
本機のUSB端子をパソコンに接続すると USB mass storage として認識され、USBメモリとして使える機能を有している(使える容量は iTunes で設定できる)が、ここに直接MP3ファイルを入れても聴くことはできない。
欠点としては、白いプラスチック筐体で経年劣化(特に日焼け)が目立つ。背面の電源スイッチが滑りやすく使いづらい。クリップが無いので衣服などに挟んでおくことができない。プレイリストを1つしか持てない。こうした欠点は第2世代以降で順次改良されている。
第2世代
2006年 9月12日発表、同年11月発売。ストレージ 1GBで、価格は税別 9,800円。 2008年 2月には1GBモデルが 5,800円に値下げされるとともに、2GBモデル(7,800円)が追加された。
初代より大きさ・重さが各々3割ほど小型軽量化されるとともに、初代の安っぽい白いプラスチック筐体に対し、筐体が金属(上下のフタはプラスチック)に変更された。さらにクリップが搭載され、服などに挟んで固定できるようになった。
内蔵電池は交換不可で、連続再生時間(満充電から最大12時間)は同等。
小型化とともにUSB-A端子は搭載されなくなり、充電・データ(楽曲)転送用のdockが付属するようになった。本体側の接続端子はイヤホン端子と兼用(⌀3.5mm ステレオミニジャック 4極)になっている。
カラバリは当初はシルバーのみだったが、後にグリーンやブルーなどが追加された。発売時の価格は税別 9,800円(後に値下げされている)。
愛用者の一人として、ここまでは順当な進化だったと思う。
第3世代
2009年 3月11日発表。内蔵ストレージが4GBに拡張されながら(後に2GBの廉価版も発売)、価格は税別 8,800円に抑えられた。
第2世代で好評を得た金属筐体とクリップを残しつつ、小型軽量化が一層推し進められた。
さらに、人工音声で曲名を読み上げ、複数プレイリストの切り替えにも対応する「VoiceOver」と呼ばれる機能を搭載した。
ところが、iPod shuffle の代名詞のような存在の本体の再生・音量・選曲ボタンを廃止し(電源スイッチのみ存置)、専用イヤホンのリモコン操作に変更されたため、好みのイヤホンで聴く楽しみが失われてしまった※。
今でこそスマートフォン対応のリモコン付きイヤホンが多数市販されているし※、狙いとしては悪くなかったのかもしれないが、今と違って当時はまだ市販のリモコン付きイヤホンは少数だったし、第2世代までの iPod shuffle と組み合わせて使うのに便利なコードが 0.6m 前後のイヤホンが多数市販されていた時期だったので、従来からのファンは不便に感じたことだろう。
また、そもそも小型軽量の iPod shuffle はリモコンのように衣服等の身近な場所に着けておけるのだから、リモコンは要らず、むしろコードに余計な物が付いて邪魔でしかないと見る人もいただろう。 以前の大きくて重いiPodならばリモコンは理に適っていたかもしれないが、USB端子すら付けられないほど小型で軽量化された本機に、別途リモコンを付けるのは少々ずれた感が否めない。
実際、このモデルはあまり好評を得られず、新しい市場を開拓するにも至らなかったのだろう。本体に操作ボタンを搭載しない設計方針は早1年で修正された。
カラバリは当初はシルバーとブラック、後にピンクなどが追加された。
内蔵電池は交換不可で、連続再生時間(満充電から最大10時間)は若干短くなった。
Dockは付属しなくなり、替わりに USB-A とイヤホンジャックをつなぐ小さなケーブル(右上図)が付属するようになった。
ちなみにこのイヤホンジャックにつなぐ専用USBケーブルは、Apple純正品はすでに販売終了しているため、サードパーティ製品に頼らざるを得ないが、第3世代と第4世代では共通に使えるものの、第2世代用として販売されている商品は第3世代・第4世代では使えないので、購入する際は注意したい。
第4世代
2010年 9月 2日発表。ストレージ容量は2GB。 価格は従来の半額の 4,800円(税別)で投入された(後に 4,200円に値下げされた後、為替調整を理由に段階的に 5,800円まで値上げされた)。
カラバリは当初シルバー他4色。後にスレートやスペースグレイ、ゴールド、(PRODUCT)REDなどが追加されつつ、息の長いモデルになった。
第3世代よりは若干体積・重量が増したものの、アクセサリ並みのコンパクトな全面金属筐体(アルミ削り出し筐体)は高級感があり、経年劣化もしづらく、長く楽しめる製品に進化した。 第2世代までの操作ボタンが復活したことで、使い勝手が向上(復活)し、好みのイヤホンと組み合わせて聴けるようになった。さらに「VoiceOver」にも対応し、複数プレイリストの扱いも可能。満充電からの連続再生時間は最大15時間に伸長。
「VoiceOver」により複数のプレイリストを切り替えて聴けるが、後に機能が削減され、日本語での曲名の読み上げやプレイリスト名の読み上げは停止されている(英語で All songs, Playlist one, Playlist two… のように読み上げられる)。
機能↑・価格↓で好評を得て、iPod shuffle の完成形となり、7年近く販売されるロングセラーモデルになった。
なお、第4世代の修理受付は継続されている。日本国内での修理サービス料金は4,400円(税別)。
音質の傾向
筆者の主観になるが、少々低音強調気味になっている。
初代発売当時は有象無象の多彩なメーカーが製品を投入し賑やかな市場だったので、音質もメーカーや機種により様々だったが、その中に遅れて投入された本機は比較的バランス良く、それでいて人気のジャンルを聴きやすい味付けになっていたと思う。
一方で、本機はイコライザーを搭載していない(そもそもそんな手間のかかるUIが大胆に省かれたことが売りの)機種なので、好みが分かれるかもしれない。
例えば、市販の比較的安価なイヤホン・ヘッドホンはドンシャリ系の味付けになっていることが多いこともあり、低音強調気味の本機とドンシャリ系のイヤホンを組み合わせることで低音が強調されすぎる場合もある。
なお、iTunes により、曲ごとに微調整ができるようになっており、好みに合わない曲があれば微調整することはできる。
デジタル音楽プレーヤー市場の発展
1979年に発売されたソニーの初代Walkman(ウォークマン)から始まる携帯用音楽プレーヤーの長い歴史は割愛するが、カセットテープやCD・MDなどの交換可能メディアを使った携帯用音楽プレーヤーが長らく愛用されていた(筆者も愛用していた)。
これに対し、各種メディアを使わないことで小型軽量化と管理の容易さ、電池持ちを実現したデジタル音楽プレーヤーの先駆けとして、韓国SAEHAN社が1998年にMP3プレーヤー「mpman」(エムピーマン)を発売[3]し、携帯用MP3プレーヤーの市場を切り開いた。
当時Discman(ディスクマン、CDウォークマン)を愛用していた筆者も早速購入し、音質などに課題はあったものの、面倒な物理メディアの管理や音飛びから解放され、小型軽量化し電池持ちも長めとあって、すっかり気に入って早々に乗り換えてしまった。
しかしMP3プレーヤーの利用にはパソコンを使って MP3 (MPEG-1 Audio Layer-3) ファイルを生成・管理・転送をできることが前提となるため、ユーザーはパソコンをそれなりに使える人に限られたし、初代mpmanの販路も秋葉原などのその筋に詳しい人が集まる店舗に限られていたが、GUI操作と32bitに対応した Windows 95 / 98 がパソコンの普及を牽引していた時期と重なり、同時にUSBの普及などでパソコン周辺機器利用のハードルが下がったことも後押しになって、他社も続々と参入し、市場は大きく拡大した。
この市場に、Appleは2001年に初代iPodを投入。ハードディスクとモニタを内蔵し、大きくて重く高価な商品だったが、同社はハードウェアだけでなく、当時としては使いやすい音楽管理ソフトウェア「iTunes」(アイチューン)を提供することで、ユーザーがMP3ファイルの作成・管理を意識せずに済み、ハードルを下げたことが奏功したのだろう。翌2002年にはiTunesのWindows版を投入し、後発ながらAppleブランドと相まってiPodシリーズは順調にシェアを伸ばし、携帯用音楽プレーヤーの「High end flash market」をほぼ独占し、2005年1月時点で携帯型音楽プレーヤーのシェア65%を握るまでに成長したと、同社のCEO スティーブ・ジョブズ氏は述べている(→#Macworld 2005)。
また、AppleはiPodシリーズの順調な拡大に乗る形で、2004年にはインターネット経由で音楽を曲単位で購入できる iTunes Music Store を開始。一時的なハードウェア販売の収入のみならず、楽曲販売(の仲介)により継続的に手数料収入を得られるビジネスモデルを構築し、収入源を拡大していた。
しかし、従来のiPodシリーズは大きくて重い上に高価だったため、他のメーカーは1万円程度までの価格帯で小型軽量なモデルを競って投入し、一定のシェアを持っていた。
原則として iTunes Music Store で購入した楽曲は、Windowsパソコン以外では Apple 社製品でしか聴くことができない※。iTunes Music Store のビジネスモデルを拡大するためには、他社の小型軽量モデルを愛用しているユーザを取り込める製品が必要になったのだろう。
そこで、2005年1月時点で同社が取り込めていなかった 29% の他社製品ユーザーに向けて、小型軽量で安価な iPod shuffle を投入した。
Macworld 2005
2005年1月11日(米国時間)開催の Macworld での基調講演の様子。iPod shuffle の発表は 1:33:12 くらいから。
iPhone の台頭と iTunes Music のサブスクリプション化
大型のiPodシリーズ(Wi-Fiを内蔵するtouchを除く)が2014年9月までに販売終了となった後も、小型機種(shuffle と nano)は根強い人気に支えられて継続販売され、iPod shuffle は初代発売より12年続いたが、2017年7月に惜しまれながら販売終了となった[4][5]。
その背景には、iPod と携帯電話を合体させた iPhone(アイフォーン)[6][7](初代は2007年発売、日本では2008年発売の iPhone 3G から対応)の普及とそれ向けのアプリ配信が同社の収益源の柱に取って代わったことと、Androidも含めたスマートフォンが普及したことにより単体の音楽プレーヤー市場が縮小傾向になる中で、iPod shuffle を廃止しても他社の参入余地は限られ、自社のビジネスモデルへの影響は軽微と判断されたのだろう。
小型軽量でシンプルな操作性の iPod shuffle は、従来のハードディスクとモニタを内蔵したiPodシリーズからシリコン(フラッシュメモリ)への切り替えを牽引するとともに、iPod・iPhoneの隙間を埋める形で同社の音楽販売 (iTunes Music Store) の牽引役を果たしてきた。
販売終了の理由は明らかにされていないが、Appleでは音楽の買い方を従来の買い切り型 (iTunes Music) からサブスクリプション型 (Apple Music) への切り替えを進めており※、モニタや通信機能の無いiPodシリーズ(iPod touch を除く)はサブスクリプションに対応できないことから打ち切られたのだと、筆者は考えている。
筆者を含め、小型軽量の音楽プレーヤーを愛用していて iTunes で楽曲を買っている人にとっては代用品が無いため、利便性を大きく損なうことにつながる(実際に筆者は iPod shuffle の販売終了間際に複数購入して延命しながら使っている)が、同社にとっては元々 iTunes Music Store を普及させる目的で登場した廉価モデルなので、その役目を果たし終えた今、これを廃止したところで同社の収益への影響は軽微という、ユーザー不在の判断なのだろう。
iPod難民
Apple (iTunes Store) がまだ参入していないハイレゾ[8]などにこだわりのある人は、元よりソニーの Walkman + mora など、他社製品を使っていることだろう。使い勝手は大きく異なるが、こうした他社製品はもちろん継続販売されている。
iPod shuffle の終息により、他社の代替機種が全く無いわけではないのだが、今は各社で配信マーケットを持っていて相互融通がされていないことに加え、携帯用音楽プレーヤー市場で生き残っている製品は老舗メーカーや尖った特徴のある機種ばかりなので、代替になりにくいきらいがある。
一方、Amazonマーケットプレイスや各社通販モールを覗いてみれば、聞き慣れない新参メーカーやノーブランドの商品が溢れているが、当たるも八卦の世界で、安定した品質の製品を購入できるかは運次第の面があるし、もちろん iTunes は使えないので、音楽管理ソフト・マーケットの変更が足枷になる。
スマートフォンの普及により淘汰されて、尖った機種しか残っていないコンパクトデジタルカメラ市場と同様、携帯用音楽プレーヤー市場もスマートフォンに食われた市場のひとつと見ることもできるだろう。
さらにそのスマートフォン市場では、当のAppleが仕掛けたイヤホンジャック廃止の余波が津々浦々に押し寄せている。iPod shuffle を気に入って iTunes Music からたくさんの曲を買うようになった人ほど、今までのように聴き慣れた有線イヤホンで音楽を楽しみたいだけなのに、様々な場面で不便を強いられる。泣きっ面に蜂状態になっているのは皮肉としか言いようがない。
筆者は iPod shuffle を終息前に数台確保してあり、交換しながら使っているし、iTunes Music Store で購入した曲がおそらく千曲以上はあるので、今ある iPod shuffle を大事に使ってゆきたいと思う。
筆者個人の感想だが、使いやすい iPod shuffle を投入してくれた Apple には感謝しているし、DRMフリー化された後の iTunes Store にも概ね満足している。 しかし、市場にこれほど大きな影響を与えた Apple には、せめて iPod shuffle(第4世代)の修理対応を末永く続けてほしいと願っている。