SIMカード
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SIMカード(シムカード)とは、3G以降※のモバイルネットワークで使われている加入者認証用のICカード。「Subscriber Identity Module Card」の略。
携帯電話・スマートフォン・モバイルルータ等の端末にSIMカードを入れることで、加入契約者であることが確認でき、通話・通信できるようになる。
通信サービス加入者を認証するための機能が搭載されているほか、モバイル決済に使うセキュア・エレメント (Secure Element, SE) などの付加機能を持つものもある。
ICカードなので加入者認証等に使う演算機能を内蔵しており、また耐タンパ性を備え、物理的な改造・改変(偽造)が困難な仕組みになっている。
関連して、加入者情報を論理的に書き換えることができる eSIM(Embedded SIM、SIMカードの機器埋込タイプ)も使われている。
SIMカードのサイズ
各通信キャリアから発行されるカードは ISO/IEC 7816 に準拠する接触型ICカード(クレジットカードなどと同じ形状)※だが、そのままでは大きすぎて通信機器では使いづらいので、通信機器用にICチップ部分を抜き出して使う仕組みになっている。
その抜き出す部分の大きさにより、3タイプある。
- 標準SIM(ひょうじゅんシム)または miniSIM(ミニシム)
- microSIM(マイクロシム)
- nanoSIM(ナノシム)
標準SIMは、昔のガラケーやUSBドングル、初期のAndroidスマートフォンで一般的に使われていたサイズ。モバイルルータでは最近でも採用している機種があるものの、今はあまり使われなくなり、標準SIMを取り扱っていないキャリアもある。
auでは標準SIMを「au ICカード」と呼んでいるが、「miniSIM」と呼ばれることもある。
microSIMは、初期のスマートフォンで使われていたサイズ。モバイルルータやWAN内蔵ノートパソコンなどでは今でも現役で使われている。
nanoSIMは、米Apple社が先導して開発し、2012年 9月発売の iPhone 5 で初採用された形状で、microSIMよりも44%小型化している。当時はiPhone専用だった(Android機種はmicroSIMを採用していた)が、Android機種でも2014年頃からnanoSIMを採用する機種が増え、2017年頃には、新規で発売される機種はほぼnanoSIMに切り替わった※。
標準SIM/microSIM/nanoSIMは元々同じICカード(のサイズ違い)なので、端子部分には互換性があり、形状を合わせてやるとそのまま使えることから、「SIMアダプタ」と呼ばれる商品が市販されており、これを使うと「小は大を兼ねる」ことができる。
ただし、SIMアダプタを使うとSIMカードが機器内部で外れたりして故障の原因になることから、端末メーカーの多くはSIMアダプタの使用を認めておらず(SIMアダプタを使って故障した場合は保証対象外になる)※、ユーザーが自己責任で使う必要がある。
ワイモバイルではmicroSIMとnanoSIMのみ※、ahamoではnanoSIMのみなど、今では標準SIMやmicroSIMを用意していないキャリアもあるので、これらの通信プランをモバイルルータ等で使いたい場合は(無保証・自己責任で)SIMアダプタを使う必要が生じる。
マルチSIM
楽天モバイル、UQモバイル、povo 2.0、LINEMOおよびMVNOの多く※では、3サイズに適応できる「マルチSIM」(または「マルチカットSIM」「3in1SIM」)と呼ばれるSIMカードを発行している。
また、ソフトバンクのデータ通信専用プランをオンライン契約する際にiPad以外(パソコン、Androidタブレット等)を選ぶと、「USIMカード(F)」というマルチSIMが発行される※。
多くのMVNOでは、ドコモ回線とau回線では、ほぼマルチSIM(1種類)に移行済み。 ソフトバンク回線では依然として形状および機種別(発行手続きの際に要選択)に6種類くらいあって複雑怪奇だが、2022年頃から徐々にマルチSIMに一本化されている※。
今は大半の機器がnanoSIMだが、データ通信用機器などにはmicroSIMや標準SIMの機器も存在するので、マルチSIMが提供されていれば、これ1枚でどんな機種にも対応できる。
ただし、一旦取り外した後で再度嵌め込んで使うこと(nanoSIMサイズで取り外した後でmicroSIM形状にする等)は推奨されておらず、こうした場合にはSIMカードを再発行※するよう案内されている。
ちなみに筆者が試した範囲では、一旦外したnanoSIMを再度嵌め込んで標準SIMにして使っても問題なかったが、多少緩んで外れやすくなっていたので、素直に再発行する方が安全だろう。あくまで自己責任でどうぞ。
SIMカードの呼称
- NTTドコモ - ドコモUIMカード(3G用は「FOMAカード」)
- ahamo - SIMカード
- au - au ICカード (au Micro / Nano IC Card)
- UQモバイル - UQ mobile Multi IC Card
- povo - povo MULTI IC CARD(右図)※
- ソフトバンク・ワイモバイル - USIMカード
- 旧イー・モバイル - EM chip
- LINEMO - SIMカード(USIMカード)
- 楽天モバイル - SIMカード
- MVNO各社 - SIMカード※
MNO各社では異なる一般名称が使われているが、今は「SIMカード」の呼称が一般化しており※、MVNOや比較的新しいブランドでは専ら「SIMカード」と呼ばれている※。
UIMカードは「User Identity Module Card」の略。 USIMカードは「Universal Subscriber Identity Module Card」[1]または「UMTS Subscriber Identity Module Card」[2]の略。
日本で使われている4G・5G用のSIMカードは互換性があり、正式名称が異なっていても、差し替えて使える。
2G時代は独自仕様になっていたものの※、3G以降(auは4G以降)では原則としてGSMAの共通仕様に則っているが、3G契約用と4G・5G契約用は異なる運用になっているようだ。
解約済みSIMカードの返却
日本ではSIMカードはキャリアが所有し、加入者には貸与する形になっている。そのため、解約や再発行(紛失や契約変更・機種変更など)の際にはキャリアの求めに応じて返却する必要がある。
店頭で解約や再発行等の手続きをすると、以前のSIMカードは回収されるが、解約済みのSIMカードに使い道は無いため、MNP転出やオンライン手続きで解約・機種変更等した場合には、返却を求められないキャリアもある。
au・UQモバイル・povoと、ソフトバンク・ワイモバイル・LINEMOは、オンライン手続きで解約等した使用済みSIMカードは返却不要。au網およびソフトバンク網のMVNOでもこれに準じて、返却不要となっている。
楽天モバイルは要返却2022年秋頃より返却不要と案内されるようになった。楽天はショップに持ち込んでも回収してもらえない(ショップでは解約手続きもできない)。紛失等で返却できない場合の損害金等は無い。
ドコモ網のMVNOは全て、解約後のSIMカードを回収している※。返却送料は加入者に負担させられる。
送料の安い定形郵便(84円)や郵便書簡(63円)で構わないが、宛名を書いて返送するのも煩わしい。返却しても廃棄するだけなのに、お互いにコストをかけて、いったい誰得なのだろう。
とはいえ、解約済みのSIMカードに価値はないので、返却し忘れても何のお咎めもない会社が多いようだが、一部、SIMカードを返却しないと紛失手数料や損害金などの名目で費用を徴収する(と宣言している)会社もある※。解約済みのSIMカードを持っていてもゴミになるだけなので※、返せと言われたのなら面倒でも忘れないうちに返却しておくのが無難だ。
不可解なのは、ドコモ網のMVNOが口うるさく返却を案内しているのに対し、ドコモ本体(ahamoを含む)ではオンラインでの解約手続きやMNP転出の後にSIMカードの返却を案内されない。
ドコモでは3G時代の2005~2006年に解約済みFOMAカードが不正に利用されたことがあるから慎重だったのかもしれないが、当時とは状況が大きく変わっており、これ以降国内で不正利用があったとの話は聞かれない。今では解約済みSIMカードを回収する必要性がないからこそ、ドコモ本体ではオンライン解約分の回収をしていないのだろう。
自社では回収不要なものを、MVNOに対しては回収を求めるドコモの態度はいかがなものかと思う。一部MVNOでは暫定的に回収を止めた所もあるが※、ドコモ系MVNOでも正式に回収不要にすればいいのにと思う。
返却不要のSIMカード(au・SB系)は、解約後に端末から取り出して、自治体のルールに従って廃棄する。SIMカードに個人情報は入っていないので※そのまま捨てればいいが、気になる場合はICチップ部にハサミを入れれば※データが破壊されて読み書き不能になる。プラスチック片や金属片で手を切らないよう気をつけよう。
端末内蔵のeSIMは貸与ではないので、当然ながら返却不要。解約後に端末の設定を開いてeSIMのデータを消去するだけで良い。
昔はSo-netも同様に「SIM損害金」を設定していた(実際に請求されたという話も聞いたことがある)が、最近のNUROモバイルでは損害金の記述が消え、実際に徴収されたという話も聞かれない。
余談
MVNOキャラクター「しむし」
MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会(テレサ協)MVNO委員会の公式キャラクター「しむし」(右図)は、SIMカードをモチーフにしている。
MVNO委員会では2014年に公式キャラクターを選定するに際し、4案から投票を経て「しむし」が選ばれ、2014年 3月 6日に同協会が主催した「MVNO2.0 フォーラム」で発表された。
かわいらしいSIMカードに羽が生えており、SIMカードの差し替えが身近になって(MVNOを使って)ほしいという願いが込められている。
そんなMVNOの先駆けとなったのは、2011年に登場した日本通信の「イオンSIM」。当時はまだ 3G (W-CDMA) だったが、追ってIIJmioとBIGLOBEが参入し、翌2012年には4Gサービスが始まった。その後はMVNEという事業形態も生まれて参入障壁が下がったことも相まって、事業者がどんどん増えた。
総務省の競争政策による後押しもあって市場は大きくなったが、当時の携帯電話端末は家電量販店などで気軽に買えるものではなく、キャリアが回線契約とセット販売するものだったので、新規参入したMVNOは回線契約と端末をセット販売するか、MNOが販売した端末をそのまま使えるようにするかの事実上二択だった。
詳しい人は以前から中古端末を買ってきたりもしていたし、キャリア端末の中でもキャリアをまたいで使いやすかったイー・モバイルの Nexus 5 などは人気を博した憶えがあるが、当時はまだ、日本では回線契約と切り離して端末を購入する習慣がまるでなかった。 2014年になると海外勢が Huawei Ascend G6 や ASUS ZenFone シリーズなどのSIMフリー機種を投入し始めたが、キャリアショップ以外でSIMフリー機種を買いやすくなったのは、シャープが AQUOS sense のSIMフリー版を投入して人気を博した2017年頃からだと思う。
その頃はまだ、SIMフリー機種を買おうと考える人が少なく、キャリアで使っていた端末を乗り換え後のMVNOでもそのまま使う人が多かったと思う。そもそも端末と回線契約は一緒にするものという先入観を持った人ばかりだったから、端末の購入・設定はキャリアショップにお任せで、SIMカードを見たこともないような人が多かった。
しかしMVNOにはキャリアショップが無く(イオンモバイルなど一部を除く)、通販型でSIMカードを宅配するので、設定はユーザーが行う必要がある。しかもキャリア(イー・モバイルを除く)が販売する端末には悉くSIMロックがかけられている、対応バンドが仕様表に載っていないなど、乗り換え障壁は今よりもずっと高かったので、無理からぬことではある。
とはいえ、「格安SIM」として次第に注目を集め、市場は少しずつ拡大した。市場ができたことで、投入されるSIMフリー機種の選択肢も増えていった。キャリアビジネスに浸りきっていたソニーが2019年夏に Xperia 1 のSIMフリー版を投入し、2022年春にはSAMSUNGもGalaxyのSIMフリー版を投入することになった。 いまだにキャリアショップの影響力は大きいが、歩みはのろくとも少しずつオープンマーケットに移行している感がある。
当時「しむし」に込められた願いは、MVNO事業者の努力と端末メーカーの参入、総務省の競争政策を支えに、ユーザーの「格安SIM」への期待が相まって、ある程度、叶ったのかもしれない。
au ICカード
モバイル通信の規格は4GでLTEにほぼ一本化されたが、3Gまでは乱立していた。
SIMカードはGSMAが標準化した規格のため、3GではGSMA陣営のW-CDMA※で採用されたが、Qualcomm陣営のcdmaOne・CDMA2000では採用されなかった。
ところが、かつて日本でcdmaOne・CDMA2000を展開していたauは、2005年 7月より独自にSIMカード(R-UIMカード)を採用し始めた。ただしSIMカードとは呼ばず※、「au ICカード」(エーユーアイシーカード)と呼んでいた※。
SIMカードの端子はISO/IEC 7816-2(ICカードの接点の寸法と位置)に準拠しているので端子の互換性はあるが、通信規格は別のものを採用していたので、3G時代のauICカードは他社の端末に差し替えて使えるものではなかった※。
また、auでは独自に「ICカードロック」「ICロック」と呼ばれる端末ロックを施していた。これはいわゆる「SIMロック」とは別のもの。最初に挿入したICカードを端末側で記録し、他のICカードに差し替えると起動しなくなるもので、他のICカードに差し替えて使いたい場合にはauショップに出向いて手数料(2,000円+税)を支払って解除してもらう必要があった。
一度解除しても他のICカードを入れた時点でまたロックされるので、ICカードを差し替える度にロック解除手続きが必要だし、中古端末を購入した場合もauショップで手数料を支払って解除手続きをする必要があるという、とんでもなく不自由な代物だった。
もっともらしく盗難防止などを理由に挙げる向きもあるようだが、他社では存在しないauのみの仕様なので、盗難防止などの取って付けたような理屈よりも、現実には中古流通を抑制する仕組みとして機能していたと思う。そもそもauが採用していたCDMA規格ではSIMカード不要なのだから、代金を支払っているユーザーに不便を強いる仕組みを導入するくらいなら、最初からICカードを採用しなければ良かったのにと思える謎仕様だった。
4G以降のau端末には、ICカードロックは存在しないので、4G(LTE)・5G機種は任意にSIMカードを差し替えて使える。
W-SIM
PHSではSIMカードは使われていなかったが、一部の端末では、WILLCOM社が「WILLCOM SIM STYLE」と銘打って開発した「W-SIM」という通信モジュールが使われていた。
名前こそSIMカードを連想させるものだが、SIMカードには通信機能は搭載されていないのに対し、W-SIMにはPHSの通信機能まで内蔵していた。
もちろん、実際に携帯端末として使うには電源(電池)やUIが要るのだが、そこは端末メーカーが比較的自由に設計できるようにし、通信機器の製造ノウハウを持たないメーカーの参入を促す狙いもあった。
フィーチャーフォン、スマートフォン(Windows Mobile を搭載する W-ZERO3シリーズ)およびデータ通信端末(PCカードやUSBドングル)といった一般向けの機器でも利用されたが、他にも玩具メーカーが開発したキッズフォンや、業務用のISDN機器をPHS網で使えるようにするアダプタなども開発・販売されていた。
余談になるが、W-SIMを含むPHS端末はSIMカードに相当する機能を内蔵しており、WILLCOMが開発した「
これは今でいうeSIMに近いもので※、公衆通信網を通じて加入者情報を書き込む仕組みになっていた。よって通販等で端末を購入(機種変更)した際には、SIMカードの交換といった手間要らずで、電話等で切り替え手続きをすれば新しい端末が使えるようになるなど、2Gでありながら先進的な使い勝手を実現していた。
余談ついでに、PHS端末では加入者情報(電話番号など)を書き込む前の状態を「白ロム」、書き込み後に解約済み(再契約可能)状態を「灰ロム」と呼び区別していた※。今でも新品・中古端末売買の際に、通信契約を伴わずに端末のみを販売/購入する意味で「白ロム」という呼称が使われることがあるが、SIMカードを採用している携帯電話には本来無関係※なものの、当時の名残だろう。